
このメルマガでは4月以降、自社株評価ルール変更の件を何度もお伝えしてきました。その影響で大ピンチを迎えているのが従業員承継です。この件について世間であまり騒がれない理由は、この分野を支援するコンサルタントが少ないからでもあります。では今回はその理由と対策について見ていきましょう!
1.一番多いのにサポートされない従業員承継
皆様ご存知の通り、事業承継には親族内承継、従業員承継、M&Aの3つがあります。
日本では長らく親族内承継がぶっちぎりのトップシェアでしたが、ここ2、3年ほど逆転して従業員承継がトップシェア(約40%)になっています。「親の事業は子が継ぐもの」という価値観が崩れて久しいので、今後も従業員が後継者指名されることは増えていくと思います。
しかし、中小企業の従業員承継でコンサルタントが入るケースは少ないです。理由は明確で、お金が出ないからです。
親族内承継の場合には、自分の子供に会社を継がせるため、コンサルタントを入れて体制を整えたり、有利な資金計画を組んだりします。M&Aの場合なら会社の売買自体の手数料が大きな収益になるので、取り組んでいるコンサルタントは多い、むしろ激戦区です。
一方で従業員承継の場合、もともと社員の中で一番仕事ができる人間を後継者として選んでいること、そして身内でもないことから、オーナー社長はあまりお金をかけてくれません。「自分で何とかしろ」という空気があります。私も振り返ってみると、従業員承継で顧問契約まで入った経験は片手で数えるほどしかありませんでした。
身も蓋もないない言い方をすれば「儲からないから誰もサポートしない」これが従業員承継の実態です。
2.改定の影響を一番受ける従業員承継
そんな従業員承継ですが、今回の自社株評価の改定がこのまま進んだ場合、株式の譲渡を受けるのに3倍、4倍ものお金を準備する必要が出てきます。業歴の長い会社では億を簡単に超えてくるでしょう。
親族内承継と違って贈与は見込めませんし、相続で受け取るケースも考えられません。今議論されている事業承継税制の特例も、ベースは贈与のため、これも検討から除外されます。ということは、従業員自身が何億円もの資金を自力で準備しなければいけないことになります。
これまでサラリーマンだった従業員後継者には非常に厳しい承継条件となります。この件について誰も触れていないのは、上記の通り「儲からないから言っても仕方ない」これに尽きると思います。
3.ではどうするか?
問題提起だけではこのメルマガ意味がないので、このまま自社株評価の改正が進んでしまった場合の従業員承継の対応策を3つ考えてみます。
①持株会社で資金調達
一つは持ち株会社スキームを使って資金調達です。買収資金がなければ金融機関から借り入れます。今回の改正で持株会社を使った節税は全て封じられそうですが、そもそも資金調達であれば節税は関係ありません。事業承継をする会社に十分な価値があれば、その返済能力を見込んで株式の買収資金を調達できるかもしれません。これはその金融機関の方針にもよるので、事前に確認しておく必要がありますね。借金をするのは持ち株会社であり従業員個人ではありませんが、実際に経営して返済していくのは従業員後継者です。承継を経営しようとしている会社が十分にその返済能力があるかを見極めておく必要がありますね。つまり事業DDしないといけないと言うことです。
②金庫株を利用する
従業員本人が株式を買うお金がないのであれば、会社に買ってもらいます。オーナー個人が持っている株式を会社で購入するということです。仮に100株のうち99株を会社が金庫株として買い取り、残った1株だけ従業員に承継すれば、従業員個人の負担は100分の1で済みます。この場合、その会社に株式を購入する資金があるかどうか問題になります。ここでは細かく触れませんが、金庫株には財源規制があるからです。また株価で買い取るタイミングも大きく影響します。ざっくりオーナーにかかる株式譲渡の税金が20%になるか50%になるか変わってきます。正直、金庫株もちょっと難しいですね。
・種類株や属人株を活用する
おそらくこちらが本命になりそうです。先代の株式を100%買うのは現実的に無理でしょう。本人が買うと言っても、配偶者や家族の理解も得られないと思います5000万の住宅ローンを組むのも一般の会社員には清水の舞台から飛び降りる思いです。その何倍ものお金を借金するというのは、本人は納得できても家族が理解できるとは思えません。
そこで100%承継するのを諦めます。具体的には例えば100株あった場合、1株だけ種類株や属人株で議決権を集中した株式を作り、残りの99%の株式は無議決権株としてオーナー社長の相続人に引き継いでいってもらうという方法です。
この場合、従業員側のメリットとしては、100分の1、1000分の1あるいはもっと少ない費用で会社の議決権すべてを手に入れることができます。
デメリットとしては、会社自体が自分のものになったわけではなく、あくまでも議決権だけです。もしも将来、会社をM&Aで売却した場合には、その大半はオーナー家系の方に飲まれてしまうことになります。
しかし、会社の経営自体は自身でコントロールできるので、自分の引退時期に自分の残した経営成果に見合った退職金を受け取る設定をしておくなど、苦労に見合った成果を得ることもできます。
・どうしても会社全体が欲しければ買収資金を全額用意する。
・当面の経営だけ行えればいいというのであれば種類株、属人株スキームを使う。
この辺りが実際の落としどころになってくると思います。
以上、今回はこれから荒れ狂うであろう従業員承継について見てきました。
従業員承継も相談自体は多いのですが、実際の顧問契約などにはなかなかつながらないため、これらのスキームを支援者が入って組むのはなかなか難しいと思います。欧米諸国のように、事業承継時にはコンサルタントを入れるのが当たり前の文化になればいいなと願いつつ、今回は筆を置こうと思います。また次回!
合同会社そうわ経営パートナー 尾形

